呼び鈴を押してモニターに映った男は驚いた様子も見せずに馴れ馴れしくそう呼んだ。
「イザヤ」
静雄が何かを言う前に
「開けたからどうぞ~」とふざけた口調でドアのロックが外された。
静雄は自動ドアを開けてマンションの中に入ってエレベーターに乗った。
いくつか並んだドアの一つの前で立ち止まるとドアが勢いよく開かれた。
「ようこそ」あまり歓迎を受けたくない男の歓迎に静雄の顔が険しくなった。
「あのさぁ、こっちに尋ねてきたのは静ちゃんで俺としては大嫌いな君をもてなしてあげてるわけじゃない?もっと表向きだけでも愁傷な顔ってできない?」
本当にひとことひとことが癇に障るというか、この男が話すからその言葉が憎らしいのか、静雄はどっちでもいいけど何でこんなところに来てしまったのかと後悔した。
「てめぇにいい顔見せる義理もねぇし、媚びようとも微塵も思ってねぇんでな」
静雄の言葉に臨也は部屋の中央のソファまで戻るとその背もたれに座った。
「とりあえず座ったら、お願いだからうちで暴れるのだけはやめてよね」
臨也の言葉に静雄はとりあえずソファに座って足を組むと煙草に火をつけた。
それを見た臨也はどこからかガラスの灰皿を持ってきた。
「静ちゃん煙草はよくないよ~」と灰皿を置いた姿勢で下から静雄の顔を見上げる。
「ふん、どんな心配だかわかんねぇけどよ火は出さねぇから安心しろ。それより確かめたいことがあったんだけどよ」
「ん?なあに?」
臨也は静雄の隣にぴったりと座る。
この男のこのふざけた感じがたまらなく気持ち悪い。
すごく殴ってやりてぇ・・・・と両手を拳にして握りしめている静雄の手を臨也はいつの間にか持っていた。
「・・・?!」
「静ちゃんって暴れてる割に手がきれいなんだよね~秘訣は何?」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い・・・・
静雄は臨也の手から伝わる冷たい体温に吐き気を感じた。
「離せ・・・」
「え~どうして?静ちゃん」
なぜか臨也は静雄の手を両手で包み込むように持っている。
振り払うのは簡単だった。けど何かが静雄を思いとどまらせる。
それはいったい何だ?
「はなせ」静雄は更に低い声でそう言うと、次の瞬間信じられないものが静雄の手に触れた。
「・・・ってっ!!!!!」
臨也の唇
静雄の手に触れたのものの正体は目の前に座っている気持ち悪い男の唇。
呆然とした静雄はカッと赤くなったまま動くことさえできなかった。
カシャッ!臨也の携帯カメラのシャッター音が鳴った。
次の瞬間、臨也は笑い出した。
「なぁーんだ静ちゃんおとなしくするのって簡単だったんだ~・・・それにしても良いショットがとれたよ~これネットに載せたらおもしろいよね~」
「イーザーヤー!!!」
「おっと、うちのもの壊したら本当に載せちゃうよ」
暴れ出そうとする静雄の目の前に今撮ったばかりの写真をヒラヒラと見せながら臨也は静雄の後ろに回った。
「静ちゃんってかわいいよね~」
静雄の首に両腕を巻き付けながら耳元で囁く。
静雄はキッと臨也を睨んでから
「お前よ・・」
「ん?なぁに静ちゃん」
と臨也はふざけた調子だが視線は鋭い。
「もう、いいわ。帰る」
そう言う静雄に臨也は「また来てね」などとウインクした。
どこまで気分が悪くて吐き気がする・・一刻も早くここを出ようと思って静雄は足早に臨也のマンションを後にした。
「もう少しだったのにね~静ちゃん純情すぎ」
臨也は窓からマンションを出て行く男を見送っていた。
<つづく>
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます。
どこがエロいんだよ!!
とお思いの方ごめんなさい・・・
実はエロ書き出すと止まらなくなるのでちょっと自重してます。